3月の初めに私たちは「手作りアニメーション体験:おどろき盤」の出前授業を特別支援学校で実施しました。参加者は高校1年から3年までの22名。自分が描いたものがどんなアニメーションになるか、みんな興味津々で、色とりどりの「おどろき盤」を制作しました。多くの生徒の方は「ぬり絵」タイプの円盤を用いて描きました。カラーペンで枠からはみだすような元気なタッチで描いた「おどろき盤」は、回して見ると鮮やかな虹色に見えたり、力強いペンの描きぶりが躍動的なリズム感を生み出していたり、とても楽しいものになりました。
円盤上の細長い小さな隙間(スリット)越しに、鏡に映った絵を見るというアナログな鑑賞方法ではハッキリと動画の効果がわかりにくい場合には、Webアプリ「マジカループ」を用いて円盤を撮影します。「マジカループ」には「おどろき盤」のデジタル画像を回転再生する機能が備わっているため、授業での活用に便利です。今回の授業でも「マジカループ」で撮影・再生する方法を大いに活用しました。授業の終わりには、教室の前に用意されたスクリーンに生徒の皆さん全員の作品(デジタル動画)を順番に映し出して、発表会を行いました。出来上がった作品をみんなで見てみることで、体験を共有できたことも大変良かったです。生徒のみなさんが興味をもって参加してくれたことで充実した出前授業となりました。
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今回、出来上がった「おどろき盤」作品はとてもバラエティ豊かでした。イルカのジャンプを生き生きと描いた作品や、前もって用意した精密な絵コンテを元にした本格的な作品もありました。「おどろき盤」では基本図形の組み合わせでも動きの面白さを表現できるので、「ぬり絵」タイプを用いて色とりどりに色を付けたり、好きな形やキャラクターを描き加えたりして、シンプルで楽しい作品も出来上がりました。特別支援学校高等部3年生の生徒のみなさんは、それぞれ個々の能力や興味に応じて「おどろき盤」に積極的に取り組んでくださいました。
描いた作品は鏡に映して回して見る方法とともに、今回もタブレット端末を用意し、Webアプリ「マジカループ」で撮影する方法も並行して行いました。授業の終わりには舞台上のスクリーンにそれぞれの作品(デジタル動画)を大きく映し出して、小さな発表会を行いました。体育館の広い空間での特別授業。卒業を間近にひかえた皆さんの特別な時間のお手伝いが、ほんの少しですが、私たちとしても出来てよかったです。
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今回は杉並区の高齢者の方々10名を対象に「手作りアニメーション体験:おどろき盤」を実施しました。参加された皆さんには、19世紀を起源とする昔の円盤型のアニメーション装置に親しんでもらい、絵や図形を描いてオリジナル作品を制作していただきました。
ふだんは児童・生徒向けに行うことの多いこのプログラム。高齢者の方々ははたして興味をもって参加して下さるのか、一体どんな作品を作って下さるのか、施設に訪問する私たちとしてもちょっとしたチャレンジでした。
参加者の皆さんは、スタッフが用意した作品例を模写して花が咲く動画を作ったり、作品例を参考に抽象的な図形の動画を作ったりされて、時間いっぱいまで、楽しく熱心に取り組んで下さいました。
「おどろき盤」は本来、鏡に映った絵柄を円盤のスリット越しに見ながら回して楽しむ装置です。描いた絵柄によっては、絵の動きがちょっと分かりにくいことがあります。
今回はタブレット端末を用意し、Webアプリ「マジカループ」を補助的に使用しました。回転アニメーションを楽しむための当館オリジナルのデジタル教材です。参加者の描いた「おどろき盤」を「マジカループ」で撮影、その画像を回転させると、肉眼よりもハッキリと動きを見ることができます。
こうしたツールも活用しつつ、皆さんにアニメーションを楽しんでいただきました。
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昨年度(2020年度)はコロナ禍の状況もあることから、美術館に来館してもらうことはできず、出前授業によって3年生から6年生までの全クラスを対象に5日間、合計8回もの授業実施となりました。内容としては、おどろき盤(3年生)、青写真(4年生、5年生、6年生)です。
おどろき盤の制作では、19世紀の作例コピーを見本として、どうしたら絵が動いてみえるようになるか、鑑賞方法自体を自分で発見することで興味を持ってもらい、次に思い思いの絵柄や図形を描くことでアニメーションの仕組みを体験してもらいました。
青写真の制作では、どの日も幸い天候に恵まれ、無事に太陽の下で焼き付けができました。光(紫外線)をあてると、印画紙の色がどんどん変化していくことも、みなさんに注意深く観察してもらいました。素材によって光の通し方が異なることもあって、青写真でのフォトグラム制作では、最初に思った通りに作品を作ることはなかなかできませんが、そうした意外性もまた、この技法の面白さだと実感してもらえたのではないでしょうか。
児童のみなさんにとっては、一年に一度の東京都写真美術館の授業。多くの人たちが、一年前、二年前にどんなものを作ったか、美術館でどんな体験をしたかを覚えていてくれたのも、私たちとしては大変うれしい体験でした。
※実施した内容は2020年度のものです。今年度のスクールプログラムの実施内容については、当館ホームページをご確認ください。
東京都写真美術館スクールプログラム2021年9月〜2021年12月
http://topmuseum.jp/contents/pages/school_index.html
「おどろき盤とは?」まずは19世紀の絵柄のレプリカを体験
おどろき盤に思い思いの絵を描きます
青写真印画紙の上に、素材をならべています
太陽の光で青写真を焼き付けています
青写真(サイアノタイプ)は19世紀に発明された写真方式。太陽の光で印画できるため「日光写真」とも言われ、その名のとおり深い青色が特徴です。青写真の印画紙は感度が低いため、暗室がなくても作品制作ができる印画法となっており、屋外で日光によってフォトグラム作品を作ることができます。当館では2015−16年のリニューアル改装工事による休館期間中にも、この青写真のワークショップやスクールプログラムをアウトリーチ活動のひとつとして実施してきました。
「体験セット」の中には、制作の手引きと当館自家製の青写真印画紙が2枚入っています。一枚目はテスト、二枚目には本番焼き付けに使っていただくのでも良いですし、お子様と保護者の方が一緒に作っていただくのも良いかと思います。3日間の配布イベントでは、受け取りに来られたのは大人の方がほとんどでしたが、「子供と一緒に作ろうと思って」と仰る方もいらっしゃいました。普段のワークショップと異なり子供たちの姿は配布会場にはありませんが、おうちでご家族で制作される様子が思い浮かびます。
皆さんが制作された青写真作品をスマホなどで撮影した画像をメールでお送りいただき、当館で記録のスライドショーを制作して、ホームページ上で公開します。作ったものをシェアするのもまた、ワークショップの楽しみの一つですね。
「ハッキリ出ました!」「たのしかったです」「ここはちょっと思った通りにいかなかったから、今度やる時はこうしてみよう…」などなど。焼きあがった青写真からは、作った人それぞれの思いが見えてくるようです。
「おうちでワークショップ 青写真」動画リンク(参加者作品のスライドショー)
当館の1階スタジオ前で配布を行いました
青写真印画紙2枚入りの「体験セット」を手渡しました
]]>ワークシートの内容は、それぞれの展示で気に入った作品を一点ずつ選び、その作品の大まかなスケッチと作品から感じられる物語を想像して書くもので、図工の先生の発案によるものです。
感染予防のため、会場内では「しゃべらない」。窮屈ですが、仕方ないことです。でもクラスの友達がどの作品をお気に入りに選んだのか、気になるものです。
「・・・(あの子はあれを選んだのか。)」
というふうに、時々友達の姿を横目に見つつ、気に入った一点の前で画面を真剣に見入る子供たちの姿が印象的でした。
スクールプログラム
港区立白金の丘小学校
実施日:2020年11月17日(火)、19日(木)
参加者:5年生 127名
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東京都写真美術館は恵比寿にあるので、学校によっては美術館と学校との距離の問題で、なかなか図工の時間などを利用しての来館がかなわないこともあります。しかもコロナ禍の今となっては、校外学習を実施しない学校も多く、さらに来館についてのハードルが高くなってきています。そうしたなかでも、先生方はさまざまな工夫をして、美術館との交流授業を考えています。東村山市立南台小学校では、今年度、2つの学年でそれぞれ違う方法で授業をおこないました。
ひとつは4年生のおどろき盤制作。これは校外学習でも出前授業でもなく、オンラインで行いました。美術館スタッフは写真美術館のスタジオにいて、そこからパソコンを通して、学校の図工室とつなぎました。あらかじめ学校に送っておいた19世紀のおどろき盤のレプリカを子供たちが手にしながら、そこに描かれたシマウマはどうやったら走っているように見えるのかを、パソコン越しの対話を通して考えながら、仕組みを発見しました。実際の制作は先生が図工室でアドバイスしながらおこない、最後に作ってみた感想などを共有しました。
あとから送られてきた感想には「一番おもしろかったところは、(おどろき盤の)穴をのぞくだけで違う世界に行けたような気持になったところです。」「むずかしかったけど最後うまくできた。先生とみんなのおどろき盤を見られて楽しかった。」など、素敵な感想がいっぱいありました。
5年生は、当館から職員が学校に訪問し、「写真ってなあに」というテーマのもとに、写真作品をプロジェクターで教室に投影し対話型鑑賞を行いました。じつは図工担当の河野先生は、毎年、印画紙作りからの青写真制作や、段ボールでのピンホールカメラ制作などを、5年生の授業でおこなっていました。そのため、先生がおこなう写真に関わる制作と、当館による写真作品の対話型鑑賞で、5年生の1年間のうちに、制作と鑑賞の両面からとことん写真の楽しさと仕組みを知ることができる流れになっています。
「色と形と言葉のゲーム」でウォーミングアップしたあとで、当館所蔵作品を2グループに分かれて2点鑑賞しましたが、ゲームでも鑑賞でも、たくさん発見し、想像し、様々な意見が飛び交い、時間がいくらあっても作品を見飽きないようでした。
子供たちからは「影がこっちに来ているからここは窓があるのかな?などと、写真の外を写真の中から考えることができておもしろかった。」「今は色がある写真が多いので、白黒の写真は初めて見た。もし交流授業をしていなかったら、白黒の写真や不思議な写真を見られなかったと思う。交流できてよかった。」「自分で気づかなかったことも友だちが気づいていて、写真からいろいろなことを考えるのも楽しかった。」と、様々な発見ができたことがうかがえる感想をたくさんいただきました。
スクールプログラム
東村山市立南台小学校
実施日:2020年10月29日(木)
参加者:4年生 58名
実施日:2020年11月12日(木)、13日(金)
参加者:5年生 59名
おどろき盤の覗き方を発見してびっくり。(4年生)
長い時間見ていても、次から次へと新しい発見が飛び出します。(5年生)
]]>今回、使用するのは8×8のマトリクス(光源)LEDです。これを、プログラミングによって制御することで、アニメーションにしました。講師は「今のギャルは電子工作する時代」をスローガンに掲げる、ギャル電子工作ユニット・ギャル電のきょうこさん。参加者の半数は映像や電子工作のワークショップは初体験でした。
まず最初に、ギャル電さんの活動や、背景にある考え方を紹介してもらいました。検索エンジンとコピペを駆使して自分たちの欲しいものを作る、ギャルのマインドによる電子工作の考え方を、ギャルっぽい話し方やビジュアルと技術的な用語は混ざり合った独特のスタイルで伝えるプレゼンで、難しいはずの内容も親しみやすくなり、会場には終始笑い声がきこえていました。
つづいていよいよ、制作です。まずははんだ付けによって、LED基盤やマイコンボードなどのパーツを接続していきました。初対面の人もいるとは思えないほど、皆さん器用にはんだ付けをしていました。ある参加者の方は、はんだ付けをマスカラやネイルアートのような感覚で楽しみながら行ったそうです!
パーツが完成したら、次はパソコンでのプログラミングに移ります。はじめに参加者それぞれがアニメーションにしたいドット絵のファイルを作り、次にそのファイルをコードの中で呼び出して、交互に表示させるようにプログラミングすることでアニメーションにしました。最後に、参加者の皆さんが作成したドット絵アニメのコードを、実際に8×8マトリクスのLEDで動くようにして、完成です。ドット絵なんて思いつかない方もいるかもしれない、心配していましたが、今回の参加者の方たちは、むしろ創意工夫を凝らして個性豊かなアニメーションを制作していました。
機材がデリケートであるなどの理由で、きょうこさんが準備した箇所もあるとはいえ、制作の大部分は参加者の方が自分で行いましたが、電子工作初体験の方も含め、皆さんリラックスして、楽しみながら作りたいものを追求していました。参加者の皆さんからは「もっとたくさんの人にやってほしい」「中学生の娘と一緒に受けたかった」などの感想をいただきました。このワークショップを通して、電子工作やプログラミングを、今までより身近で気軽に楽しめるものに感じてもらえたのではと思います。普段は公共空間でサイネージなどのかたちで目にするLEDですが、単なる受け手としてだけでなく、ご自身でも扱えるものとして、これからはちょっとクリエイティブな目線で見ていただけると嬉しいです。
「映像ワークショップ LEDの明滅で、アニメを作ろう」
実施日:2020年10月31日(土)
参加者:3名
ギャル電・きょうこさんによる活動紹介
はんだごてを使って、パーツをつなげていきます
ドット絵を作ります
コードが動くようになったLEDを、それぞれデコレーションしたポーチに入れて完成です
]]>これまでには、普段からパブリックプログラムやスクールプログラムで実施している写真・アニメーション制作プログラムおよび「色と形と言葉のゲーム」のファシリテーター研修や、プロの手話通訳者を講師に招き、耳が聞こえない方に対する接し方から簡単な手話を実践的に学ぶところまでのレクチャーなど、現在の当館のボランティア活動を行う上で必要と思われるさまざまな研修を行ってきました。
2019年度も、いくつかの研修を実施。1つ目は、作品の額入れのデモンストレーションや、館のバックヤード解説など、普段は目にすることのない美術館の裏側に関するレクチャー。2つ目は、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の教授であり、同大のアート・コミュニケーション研究センター所長でもある福のり子氏による対話型作品鑑賞の講演です。
なかでも11月24日に開催した福のり子氏を講師に迎えた研修では、当館ボランティアに加え、当館が所属する公益財団法人東京都歴史文化財団の他施設のボランティアも一緒に参加して実施する、当館初の機会となりました。コミュニケーションや対話を交えた作品鑑賞にまつわる福先生のレクチャーは、常日頃から意識的にものを見ることの大切さや、単なる答えではなく、物事の解釈や問いそのものを考え出す人間ならではの能力について、具体的な事例を踏まえながらテンポ良く進みました。最後には、皆さんからの質問や疑問に丁寧にお答えいただき、深い学びに満ちた、あっという間の3時間となりました。
質疑応答タイム。皆さんから活発な質問が飛び交いました
]]>当館のプログラムでは、展示室やスライドで作品を鑑賞する前に、自由な発想を促すためにおこなっていますが、見たこと、感じたことを言葉に置き換えやすくする効果や、どんな発言しても間違いではなく、それぞれの見方が尊重されることを知ってもらう働きがあります。また、参加者全員に発言する機会があるため、限られた人の意見のみが強調されることもありません。
また、一見すると子供向けの教材と思われがちですが、年齢を問わず楽しんでいただけるのもこのゲームの特徴です。それぞれのカードをじっくり見比べることによる「観察力」、自分で発言するだけではなく他者の意見に耳を傾けることでの「傾聴力」、その名の通り色と形という二つの要素に目を凝らし、想像を膨らませることによる「思考力」や「想像力」など、さまざまな力を複合的に育成することが可能なツールです。
コミュニケーションの活発化のためにも、ぜひ、お友達やご家族、会社の同僚の方と一緒におこなってみてはいかがでしょうか?お互いの発言を聞き合うことを通じて、新たな発見があるかもしれません。
子供から大人まで、幅広い年齢層の方に楽しんでいただけるゲームです
さまざまな色や形、言葉が並びます
]]>10〜20人程度のグループに分かれたら、まずは、じっくり作品を観察するところからスタート。その後、気づいたことや気になったことを話してもらいます。
ここで、「TOPコレクション イメージを読む 写真の時間」展開催中に、川内倫子の〈Illuminance〉を鑑賞したときのことをご紹介しましょう。
はじめは、「人がいる」「光が階段に伸びている」といった画面上の目についたものに関する発言から、徐々に、「階段は下から上に向かって伸びている感じがする」「足がぶれているから階段を走っている人がいて、エネルギーを感じる」「夕方だと思う」「光の強さから考えると、昼なのかもしれない」・・・などに話が発展していきます。みんなですみずみまで作品を観察し、さまざまな角度からの対話を通して多様な気づきを共有していくことで、例えば写真を撮影した時間や作家の立ち位置に思いをめぐらせたり、最終的には、作家の制作意図に迫るほどの鋭い意見が出ることもしばしばです。
既に用意された答えに誰よりも早く到達するのではなく、自分の頭で主体的に考え、借り物ではない自らの言葉で表現すること。数学などの教科とは違って、ある明確な答えを持たない「芸術」だからこその面白さなのではないでしょうか。
「写真」という身近なメディアを用いた作品鑑賞は、絵画や彫刻などのジャンルと比べて、誰もが撮影経験があるため親しみやすいもの。また、複数の人でともに鑑賞し、さまざまな見方を共有すれば、さらに多くの気づきが、作品を、そしての子供たちの「生きる力」を輝かせるはずです。
川内倫子〈Illuminance〉を鑑賞。どんどん手が挙がります
]]>このプログラムは、さまざまな背景を持つ人が参加者として集まり、見える人と見えない人の2名のスタッフがペアになって参加者をナビゲートし、意見を交わしながら展覧会をめぐるワークショップです。見える・見えないの垣根を取り払い、その場に集った参加者が一緒にいくつかの作品を鑑賞しながら、「見えていること」「見えないこと」を意識しつつ、言葉にしていきます。
2019年度には、「TOPコレクション イメージを読む 場所をめぐる4つの物語」、「TOPコレクション イメージを読む 写真の時間」、「日本の新進作家vol.16 至近距離の宇宙」の3つの展覧会を対象とし、計6回実施しました。
例えば、「TOPコレクション イメージを読む 場所をめぐる4つの物語」の出品作であるユージン・スミス〈カントリー・ドクター〉の鑑賞では、夜通しで手術を行った後の医師の様子であるというタイトルの情報から、対話が始まりました。「夜通しということで疲れた表情はうかがえるが、それよりも整った顔立ちが際立っている印象がある」「撮影者の意図はどういったものだろう?」という意見があり、それに続いて被写体が持っているカップや被写体の背後にあるものの様子などについて様々な意見が交わされた後で、ある参加者から「皆さんの意見を聞いていると、このポーズは自然なものではなく、撮影者が指示をした上で行った意図的なものなのかな?という気がしてきました」という声が上がり、参加者全員が頷く場面もありました。
このように、参加者の皆さんが、常日頃から当たり前だと考えていることや、わかっていると思い込みがちなことも、実際に複数の人々で意見を交わしながら丁寧にひもといていくことで、見え方が変化していくことを体験していきます。
展示室からスタジオに戻った後は、参加者もスタッフも同じテーブルにつき、一人ひとりの感想を聞きつつ、その日のプログラムを振り返ります。「特に抽象的な作品は言葉にして伝えることの難しさを感じました」「誰かと見ることで、一人では気づかない視点を得られました」「お互いの言葉でストーリーを作り上げているような楽しさがありました」などの感想があがり、和やかなムードでした。
その場にいる参加者の発言ひとつひとつを積み重ねながら、誰かと一緒に見る作品鑑賞の面白さ、そして目に見えることや見えないけれど感じ取っていることを言葉にする難しさを実感する新たな発見の機会となりました。
ユージン・スミス〈カントリー・ドクター〉を鑑賞
展示室での鑑賞の後、皆で気づいたことや感想などを話し合います
]]>ですが、およそ20年ほど前まではフィルムカメラが主流だったため、撮ったその場で写真を見ることはできませんでした。フィルムで撮影したものを見るには現像が必要なのです。現像とは、文字通り「像が現れる」と書きます。現像しなくてはイメージが現れてきません。撮った後、写真が出来上がるまでにひと手間かかります。フィルム写真はそういう点で、デジタル写真よりも不便なものです。
このワークショップでは、今日では「不便なこと」とも言える、暗室での写真の現像を体験します。ではなぜ、このデジタル時代に写真を「現像」するのでしょうか?
当館で行っている「モノクロ銀塩プリントワークショップ」の楽しみ方の一つは、古いネガフィルムから白黒写真を自分の手でプリントすることです。このプログラムで、白黒写真の手焼きプリントを作るには、暗室の中で、手作業によって、ネガフィルムから現像を行います。
このワークショップにはこれまでたくさんの方にご参加いただいていますが、どなたもとても熱心な方ばかりです。その中でも、古いネガフィルムを持って来られる方の姿が特に印象的です。
何十年も昔に撮影された、ご自身が子供の時の写真や、あるいは親御さんの若い時の写真を誕生日のプレゼントにと、夢中になって写真をプリントする方のご様子は、とても素敵です。
わざわざ遠くのご実家の押入れから、このワークショップに参加するために昔のネガを探し出して持ってこられたという方、その意気込みに感服しました。
このワークショップのために、そこまで念入りに準備して熱心に制作されている。参加者の皆さんの熱い思いが伝わってきて、私たち美術館スタッフにとっても、大変うれしい出来事です。
もちろんフィルム写真が好きで、今もずっとフィルムで撮られていて、最近撮った写真をプリントする方もワークショップを大いに楽しんで下さっています。でも古い写真が暗室特有の闇の中で、蘇って現れてくる瞬間の驚き、参加者の皆さんの感動の様子は、何か特別なものがあるようです。そこで皆さんが感じられているのは、まるでタイムスリップのような体験ではないでしょうか。
「ネガは楽譜であり、プリントは演奏である。」、この言葉は20世紀を代表する写真家アンセル・アダムスの言葉です。演奏が楽譜の単なる再現ではないように、暗室での現像プロセスを通して、人は単に昔の写真を再現しているのではなく、新たに過去と出会い、過去を再発見しているのかもしれません。
今のコロナ禍の状況により、大変残念ながら今年度はまだ「モノクロ銀塩プリントワークショップ」を開催することができないでいます。しかし、いずれまた再開の時がくれば、必ずこのプログラムを皆さんにお届けします。その時はぜひ、ご参加いただけましたら幸いです。
古い写真にも、何か新しい発見があるかもしれません。
]]>普段はプログラムの実施報告などをご紹介しております本ブログですが、このような状況のため、令和初めての年(2019年度)に開催したプログラムのうちいくつかについて、これから5回にわたってふりかえってまいります。
当館の教育普及プログラムは2つに分かれます。一つは一般の方を対象としたパブリックプログラム、もう一つは学校の授業などでの来館を対象としたスクールプログラムです。また当館のプログラムの特徴は、制作と鑑賞、両方のワークショップが揃っているということです。
このような特徴のもとに開催してきた各プログラムを、まずは、そのエッセンスだけでもみなさまに感じていただければ幸いです。
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ベッヒャー夫妻が撮った9枚の家の作品の鑑賞では、それぞれの家のデザインの特徴をよく観察していて、外壁のデザインが、LやTを逆さまにした形などのアルファベットに見えるという意見がありました。
また、各自が9点の作品の中から一番好きな家を選ぶと、煙突がある家が一番人気でした。外に階段がある家が面白そう、住みやすそうに見えるなど、様々な意見が交わされました。
スクールプログラム
渋谷区立加計塚小学校
実施日:2018年12月11日(火)
参加者:3年生 計40名
当館オリジナルゲームでウォーミングアップ。
ベッヒャー夫妻の作品を鑑賞する。
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